大判例

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新潟地方裁判所 昭和25年(行)15号 判決

原告 曾我一英 外一名

被告 新潟県教育委員会

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告等訴訟代理人は、「被告が昭和二十四年十一月三十日附を以て為した原告等に対する転任並びに休職の各処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求原因として、

一、原告等は新潟市立関屋中学校に教員として勤務する教育公務員であるが、被告は、原告等が恋愛事件を惹起し、その結果(1)生徒、父兄教職員並びに地域社会の信用を失墜した(2)教育者としての体面を汚した(3)校長の学校運営に協力を欠いたとの事由に基き教育公務員特例法第十五条、同法施行令第九条、地方自治法附則(昭和二十二年法律第六十七号)第五条、官吏分限令第十一条第一項第四号に則り、昭和二十四年十一月三十日附を以て原告等に休職を命じ、同時に原告曾我を新潟県西蒲原郡坂井輪村立坂井輪中学校に、原告藤田を新潟市立宮浦中学校に、夫々転任を命じその転任辞令は同年十二月一日原告両名に、休職辞令は同月六日原告藤田に同月七日原告曾我に夫々交付された。

二、けれども本件休職並に転任の各処分は、次の理由により何れも違法である。

(イ)  公立学校の教育公務員たる原告等は、休職について官吏分限令第十一条の準用を受けない。仮に準用があるとしても原告等には前記のような休職処分の事由がない。又仮に右事由があつたとしても、官吏分限令第十一条第一項第四号所定の「官庁事務の都合に依り必要なるとき」に該当するものとは云えない。

(ロ)  教員の転任につき、新潟県地方ではその本人及び転出入学校の各校長の意見を聞きその承諾を得るべき慣習が多年存するに拘らず被告は、之に違反し、単に関屋中学校長の具申のみに基き、原告等の意見を聞かずして本件転任処分を為した。

三、よつて原告者は、昭和二十四年十二月十三日本件各処分について被告に対し審査の請求をしたところ、その後これに対する裁決のないまゝ三箇月を経過したので、本訴に及んだものであると述べ、被告の主張事実中原告等の家族関係及び本件休職処分をなすについて新潟県職員委員会の承認を得たことは認めるがその余は否認すると述べた。(立証省略)

被告訴訟代理人は、原告等の請求を棄却するとの判決を求め、答弁として、原告等主張の事実中、一、は認める 二、の内原告等の意見を聞くことなく転任処分が為されたことは、認めるが、その他は否認する。三、は認める。

原告等には別紙記載のような事由があつて学校運営に支障を生じたので、被告は新潟県職員委員会の承認を得て本件休職処分をなしたのである又転任の処分は、被告委員会の専決事項であつて本人及び関係学校長の意見を聞くことを要するものではない。従て本件休職並に転任の各処分には原告等主張のような違法はないと述べた。(立証省略)

三、理  由

原告等主張の一、の事実は、当事者間に争がない。

よつて先づ本件休職処分の適否について判断するに、

(イ)  教育公務員特例法は、元来教育公務員が一般公務員と異る特殊の職務と責任とを有することから教育公務員の任免分限等につき一般公務員に適用される法律の特例を規定したものであるけれども、これにより教育公務員に対し一般公務員に適用される法律の適用を全く排除したものではなく、一般公務員に適用される法律の規定中右特例法に規定されていないもの及び同法の規定と牴触しないものは教育公務員に対しても適用されるのである。従つて右特例法第三条に定められた国家公務員としての身分を有する教育公務員に対しては、右の範囲内において国家公務員法が適用され、国家公務員としての身分を有する教育公務員に関する限り右特例法は国家公務員法附則(昭和二十二年法律第百二十号)第十三条に基き制定されたものである。ところで、右特例法第三条に定められた地方公務員としての身分を有する教育公務員については、右特例法制定当時国家公務員法と並んで制定されるべき地方公共団体の職員に関して規定する法律(地方公務員法)が未だ制定されていなかつたため、右特例法第三十三条において右法律が制定される迄の間右特例法若くはこれに基く命令又は他の法律に特別の定があるものを除くほか地方公務員としての身分を有する教育公務員につき特別の定をすることを政令に委任し、右特例法施行令第九条はこの委任に基き地方公務員としての身分を有する教育公務員を右の制限内で一般地方公務員の身分と同様に取り扱うことを定めたのである。そして地方自治法附則(昭和二十二年法律第六十七号)第五条によれば、都道府県の吏員に関しては官吏分限令第十一条が準用されるものと解されるのであつて(地方自治法施行規程第二十四条は、官吏の任免休職等の手続に関する規定の準用を排除したもので官吏分限令第十一条の準用を排除した趣旨の規定ではない)地方公務員としての身分を有する教育公務員に対しても特にその準用を排除する特別の規定は存しないから、地方公務員としての身分を有する教育公務員に対しても右特例法施行令第九条に基き当該都道府県吏員の例により官吏分限令第十一条が準用されるものと解すべきである。

(ロ)  そこで、原告等に被告主張のような事由があつたか否かについて調査するに成立に争いない甲第四号証の一、二同第七号証(昭和二十四年十一月二十四日の関屋中学校分会の決議部分)同第八号証の一、二乙第一号証同第二ないし第四号証の各一、二証人池田恵司、後藤敏、渡辺キミ、原鳳順、石川健四郎、小野田金三、玉木宇一、阿部ミツヱ、渡部隈一、高橋喜三郎、小林フミの各証言を綜合すると原告等は何れも配偶者と三人の子供を有し(右の事実は当事者間に争いがない)原告曾我は関屋中学校の教頭代理の地位にあつた者であるが同校に勤務する原告藤田と昭和二十四年八月頃より恋愛関係を生じ学校内或は附近に於て屡々密会し常軌を逸した行動があつたこと。原告等は同年八月三十日の晩同校教員後藤敏、渡辺キミの両名に対し「自分等は相思相愛の関係にあつて最早やどうにもならない所まで来ている二人の間は想像にまかせる、力になつてもらいたい」と縷々心情をのべて助力を求め、同夜原告両名とも帰宅せずして共に教室内で宿泊したこと。原告等は右後藤、渡辺両名より夫々もとの家庭に帰るよう勧告されたが受け入れず原告両名の恋愛関係は原告藤田の夫政次の知るところとなり三人の間に葛藤を生じ原告曾我は右政次になぐられたこともあつたのみならず、原告両名の右恋愛関係は同校生徒、父兄教職員及び附近地域社会の人達の間にも評判となり嘲笑非難の的となつたこと。同校々長池田恵司は同年九月末頃原告等の右恋愛関係を知り、学校教育に及ぼす悪影響をおそれ原告両名に反省を求めたけれども原告等は聞入れず反つて校長に対し反抗的な態度に出て依然恋愛関係を継続しておつたのであつて結局原告等は右のような事情により生徒、父兄、教職員及び附近地域社会の人達の信用を失い教育者としての体面を損じひいて学校運営にも支障を生ぜしめるに至つたことが認められるこれを覆えすに足る証拠は存じない。

しかして斯くの如く地方公務員の身分を有する教育公務員に、生徒、父兄、教職員、附近地域社会の人達の信用を失い教育者としての体面を損じ学校の運営に支障を生ぜしめるような事由の存する場合には官吏分限令第十一条第一項第四号により休職処分に付することも出来うるものと解すべきであつて結局被告のなした本件休職処分には原告等主張のような違法は存じない。

次に本件転任処分の適否について考えるに被告が本件転任の処分をなすに当り、原告等の意見を聞かなかつたことは当事者に争いのないところである。けれども新潟県地方に於て公立学校の教員の転任につき本人の意見を聞かなければならない慣習の存することは之を認めるに足る証拠がない、従て原告等の意見を聞かずしてなされた本件転任の処分に付ても原告等主張のような違法はないものと云わざるを得ない。然らば原告等の本訴請求は何れも失当であつて排斥するの外はない。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山村仁 中村憲一郎 小林謙助)

被告の主張する本件休職処分の事由

(1) 原告曾我は妻みねとの間に三人の子供を有し原告藤田は夫政次との間に三人の子供を有する者であるが、両名は昭和二十四年八月中恋愛関係に陥り、その勤務する関屋中学校の校舎内外で殆ど毎日密会しその行動は常軌を逸し、同月三十日の夜は両名で教室内に宿泊した。

(2) 原告両名の恋愛関係は藤田の夫政次の知るところとなり原告等との間に葛藤を生じ、同年九月二日以降学校附近及び藤田宅内外で三人の間に論争を続け、同月十三日の夜原告曾我は飲酒して藤田宅に赴き口論の末政次になぐられた。

右(1)(2)の事実は、同校職員、生徒父兄、及び附近地域社会の人々の知るところとなり、原告両名は非難嘲笑の的となつた。

(3) 同校々長池田恵司は、同年九月二十八日頃原告等の恋愛関係につき反省を促したが、原告等はこれに従わず恋愛関係を継続した。

(4) 原告藤田は、同月二十七日校長に無断で任地と離れ数日間赤倉に行つた。

(5) 原告等は職員や校長の忠告を容れず恋愛関係を継続するため生徒は原告両名に関し聞くに堪えない噂話をし授業中でも原告等を見ると動揺して困るので、校長は原告等に対し生徒に接觸しないよう勧告したが頑として之に応ぜず却て反抗論争し校長の学校運営を妨害した。

以上のような事実により原告等は生徒父兄教職員並びに地域社会の人達の信用を失墜し教育公務員としての体面を汚し又校長の学校運営に協力を欠いたものである。

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